4つの大切なC : Adlerian 心理学

はじめに

今年度、早稲田大学の向後千春先生が主催されている「 教える技術オンライン研究会 」に参加しています。2021年度にも参加していたのですが、今回は対面とオンラインを組み合わせたハイフレックス形式での開催とのことで、楽しみにしていました。

第1回目は早稲田大学での開催。せっかくの機会なので、対面で参加してみました。はじめて向後先生と対面でお会いして、教える技術の他にも、懇親会で美味しいお酒を飲みながら、いろいろとお話をお伺いすることができました。その中で特に印象に残ったのが、「4つの大切なC(Crucial Cs)」という考え方です。

この「4つの大切なC」について興味深く思っていたところ、個人心理学の学術論文誌でこのトピックに関連した 特集号 が組まれているのを見つけたので、この週末、ちょっと読んでみました。学びの多い内容だったので、まとめてみたものについて、共有してみたいと思います。

4つのコアゴール

Alfred Adlerは、人間の行動を理解するための理論として個人心理学を提唱しました。この理論は、人間が自分自身や他者との関係性を通じて社会的な価値を見出すことができるという考えに基づいています。Adlerは、人生の様々な側面(仕事、友情、親密な関係など)で求められる「4つのコアゴール」を特定しました。

  • 所属感を持つこと(Belong):人間は社会的な生き物であり、愛と所属感を強く求めている
  • 改善すること(Improve):人間は常に成長し、学び、自己を向上させたいという願望を持っている
  • 重要性を感じること(Significance):人間は意義深い人生を送り、世界に変化をもたらしたいという願望を持っている
  • 励ましを受けること(Encouragement):人間はポジティブなフィードバックと励ましによって動機づけられている

4つの大切なC

Betty Lou BettnerとAmy Lewは、Adlerian心理学の専門家であり、その理論を教育分野などで実践的に応用することに取り組んでいます。彼らは、個人が自己や他者とのつながりを築き、自己肯定感を高め、自身の能力を最大限に発揮し、勇気を持って行動するために必要な要素として、「4つの大切なC」という考え方を提唱しています。

  • つながり(Connect):他者とのつながりを築くこと
  • 能力(Capable):自分自身の能力や成長に焦点を当てること
  • 価値(Count):自分自身や他者が社会的に価値があることを認識すること
  • 勇気(Courage):恐れや不安に立ち向かい、行動するための勇気を持つこと

4つの誤った目標

BettnerとLewが提唱する「4つの大切なC」は、Adlerian心理学者であるRudolf Dreikursからも大きな影響を受けています。Dreikursは、個人が行動する際に持つ「4つの誤った目標」(注意を引こうとする・支配しようとする・報復しようとする・回避しようとする)という考え方を提唱しました。

  • 注意を引こうとする(Attention):注目を集めるために、過度に騒いだり、他人を邪魔したり、挑発的な行動をとる
  • 支配しようとする(Power):他者を支配し、力と優位性を感じるために、他人に対して虚偽をついたり、脅迫したり、威圧する
  • 報復しようとする(Revenge):自分を傷つけたと感じる他者に復讐し、意地悪になったり、攻撃的になる
  • 回避しようとする(Avoidance):責任や失敗から逃れるために、仕事を怠ったり、約束を破ったり、期待に応えることから逃れる

これらの「4つの誤った目標」は、個人が自身や他者とのつながりを築くために必要な社会的関係を妨げ、社会的孤立や困りごとを抱える原因となります。

4つの大切なC」が満たされていないとき、心理的ニーズを満たすための適切な方法ではなく、「4つの誤った目標」のいずれかに取り組んでしまう可能性があります。

たとえば、「つながり(Connect)」を得られずに孤立感を感じる時、周囲の注目を集めることで自己の存在価値を証明しようとする「注意を引こうとする(Attention)」という誤った目標に取り組むことで、問題行動や社会的問題を引き起こすかも知れません。

まとめ

以上のことを踏まえて、「4つの大切なC」について、それが満たされているとき・満たされていないときの感情・行動、そして、それを満たすために必要になることについてまとめてみます。

つながり(Connect)

  • 満たされているとき:他人とのつながりや所属感を感じ、社交活動に参加し、他人との関係を築こうとする
  • 満たされていないとき:孤独や孤立した感じを覚え、社会的な状況から遠ざかったり、他人とつながる方法を探そうとする
  • 満たすためには:他人とのポジティブな関係を築き、維持することが必要

能力(Capable)

  • 満たされているとき:自分の能力に対する自信と有能感を感じ、挑戦を引き受け、目標達成に向けて努力する
  • 満たされていないとき:自己不十分感や自信の無さを感じ、挑戦を避けたり、簡単に諦めようとする
  • 満たすためには:自分自身に達成可能な目標を設定し、スキルと知識を獲得するために努力することが必要

価値(Count)

  • 満たされているとき:他人から価値を認められ、感謝されていると感じ、他人に対する感謝を表現し、彼らの貢献を認めようとする
  • 満たされていないとき:他人に重要性を見落とされたり、無視されたりしていると感じ、他人からの注目や承認を求めたり、自分を認めてくれない人々に対して恨みを抱く
  • 満たすためには:自分自身と他人の価値を認め、彼らの貢献に感謝の意を表現することが必要

勇気(Courage)

  • 満たされているとき:挑戦に対して勇敢で自信に満ちており、リスクを取り、恐怖に立ち向かう
  • 満たされていないとき:恐怖を感じ、挑戦を避けたいと思い、リスクを避けたり、過度に慎重になる
  • 満たすためには:自分の恐怖を認め、それに立ち向かうことで自信を築き上げることが必要

さいごに

4つの大切なC」を日常生活のなかで意識することで、自分の行動や感情に対する理解を深めて、自己と他者の関係性を新たな視点から捉えることができるのではと思いました。「4つの大切なC」は、「4つのコアゴール」に辿り着くためのカギになりそうです。

Posted :