気になるニュース:鎌状赤血球症の遺伝子編集治療
はじめに
- Vertex Pharmaceuticals と CRISPR Therapeutics は、世界で初めてのCRISPR/Cas9による遺伝子編集治療法がイギリスの医薬品・医療製品規制庁(MHRA)によって、鎌状赤血球症と輸血依存型ベータサラセミアの治療用として承認されたことを
発表
- この治療法は、12歳以上の鎌状赤血球症患者や輸血依存型ベータサラセミア患者で、適切なヒト白血球抗原(HLA)一致した関連造血幹細胞ドナーが見つからない場合に適用されるとのこと
- CRISPRに基づく治療法としては世界初の規制承認
- 高校生向けの講座などで鎌状赤血球症について解説していることもあり、気になるニュースだったので、この機会に、背景などをまとめてみる
鎌状赤血球症とは
- 鎌状赤血球症(SCD)は、遺伝的な要因で発症する血液疾患であり、赤血球が正常な円形ではなく、「鎌」のような形状になってしまう
- この形状の変化は、赤血球の機能に影響を与え、身体のあらゆる組織や器官への酸素輸送が阻害されることによって重篤な症状を引き起こし、患者は、痛み、器官の損傷、および寿命の短縮を経験する可能性がある
ライナス・ポーリングとSCD
- 鎌状赤血球症のメカニズムに関する重要な発見は、化学者ライナス・ポーリングによってなされた
- ポーリングは、SCDがヘモグロビンというタンパク質の立体構造の異常化によって引き起こされることを発見した
- ポーリングの研究成果は、SCDの発症メカニズムを分子レベルで理解するための画期的なものであり、将来の治療法の開発への道を開いた
SCDのメカニズム
- SCDの原因は、ヘモグロビンの遺伝子変異にある
- 鎌状赤血球症では、ヘモグロビンのアミノ酸配列の一部にあるグルタミン酸がバリンに変異する
- 親水的な酸性アミノ酸であるグルタミン酸が、疎水的な中性非極性アミノ酸であるバリンに変異すると、タンパク質同士が凝集しやすくなる
- この変異により、ヘモグロビン同士が凝集し、赤血球内で硬い線維が形成される
- これが赤血球の鎌形への変形を引き起こし、赤血球が破裂しやすくなり、ヘモグロビンの損失につながってしまう
CRISPR/Cas9 による SCD のゲノム編集治療
- CRISPR/Cas9は、生物学的な「ハサミ」として機能し、特定のDNA配列を正確に切断して編集することができる革命的な技術
- このゲノム編集技術により、遺伝的な要因で発症する病気について、遺伝子の誤った部分を削除、修正、または挿入するという治療法が検討されていた
- 冒頭に紹介したように、Vertex Pharmaceuticals と CRISPR Therapeuticsは、CASGEVY™ というCRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集治療法を発表
- CRISPR/Cas9技術を使用することで、ヘモグロビンの遺伝子に生じた変異を直接修正し、病気の原因を根本から治療することが可能とのこと
まとめ
- 鎌状赤血球症は、高校生物の教科書でも紹介されるトピック
- CRISPR/Cas9技術を使用した新しい治療法の登場によって、この難治性の疾患に対する治療の可能性が大きく拡がったことは、子どもたちの興味関心を惹くのでは
- 授業でもタンパク質の構造異常について話す予定だったので、このニュースも紹介してみようかな