Qubit Duo: 量子ビットで遊ぼう!
量子コンピュータは、量子力学の原理を活用して、特定のタスクにおいて従来のコンピュータよりもはるかに効率的に計算を行う革新的な分野です。
量子コンピューティングの基本概念の一つが量子ビット(qubit)。このノートでは、山本が作った Qubit Duo というアプリを使って、量子ビットの基本的なふるまいを遊びながら楽しく学んでみます。
量子ビットとは?
量子ビット(キュービット)は、古典的なビットの量子アナログです。古典的なビットは 0 または 1 の状態を取りますが、量子ビットは両方の状態を同時に取ることができます。数学的には、量子ビットは以下のように表されます:
$$ |\psi\rangle = \alpha|0\rangle + \beta|1\rangle $$
ここで、 $|\alpha|^2 + |\beta|^2 = 1$ であり、 $\alpha$ と $\beta$ は複素数です。
重ね合わせ
重ね合わせは、量子力学の基本原理の一つです。これにより、量子ビットは同時に 0 と 1 の組み合わせの状態にあることができます。重ね合わせ状態にある量子ビットを測定すると、 $|\alpha|^2$ の確率で 0、$|\beta|^2$ の確率で 1 になります。
これを視覚的に理解するために、量子ビットを球の上の点として考えてみてください。この球をブロッホ球と呼びます。北極が状態 $|0\rangle$ を表し、南極が状態 $|1\rangle$ を表します。
重ね合わせ状態の量子ビットは、この球の表面のどこにでも存在することができます。
量子ゲート
量子ゲートは、古典的な回路における論理ゲートのように、量子回路の基本要素です。量子ゲートは様々な方法で量子ビットを操作します。
アダマールゲート
アダマールゲート(H
ゲート)は、古典的な状態から重ね合わせ状態を作り出します。
アダマールゲートを状態 $|0\rangle$ または $|1\rangle$ の量子ビットに適用すると、次のようになります:
$$H|0\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle + |1\rangle)$$ $$H|1\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle - |1\rangle)$$
CNOT ゲート
CNOT ゲート(制御 NOT ゲート)は、量子ビットをエンタングルさせる2量子ビットゲートです。最初の量子ビットは制御ビットとして機能し、2番目の量子ビットはターゲットビットとして機能します。
CNOT ゲートは、制御ビットが状態 $|1\rangle$ の場合、ターゲットビットの状態を反転させます。この変換は次のようになります:
$$\text{CNOT}|00\rangle = |00\rangle$$ $$\text{CNOT}|01\rangle = |01\rangle$$ $$\text{CNOT}|10\rangle = |11\rangle$$ $$\text{CNOT}|11\rangle = |10\rangle$$
エンタングルメント
エンタングルメントは、2つ以上の量子ビットの状態が相互に関連し、他の量子ビットの状態を独立して説明できないようなユニークな量子現象です。量子ビットがエンタングルされると、一方の量子ビットの測定が他方の状態に即座に影響を与えます。
ベル状態
エンタングルメントの代表的な例がベル状態です。ベル状態は、完全にエンタングルされた2量子ビット状態の特定のセットを指します。最も一般的なベル状態は次の4つです:
$$|\Phi^+\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |11\rangle)$$ $$|\Phi^-\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle - |11\rangle)$$ $$|\Psi^+\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|01\rangle + |10\rangle)$$ $$|\Psi^-\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|01\rangle - |10\rangle)$$
これらの状態は、量子ビットの間に強い相関が存在し、1つの量子ビットの測定結果が他の量子ビットの測定結果に直接影響を与えることを示しています。
エンタングルメントの作成
エンタングル状態を作成するためには、制御ビットにアダマールゲートを適用し、その後CNOTゲートを適用します。以下は、ベル状態(具体的には $|\Phi^+\rangle$ 状態)を作成する例です:
2つの量子ビットを状態 $|00\rangle$ にします。
最初の量子ビット($q_0$)にアダマール(H
)ゲートを適用します:
$$H|0\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle + |1\rangle)$$
その結果、状態は次のようになります: $$\frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |10\rangle)$$
最初の量子ビット($q_0$)を制御ビット、2番目の量子ビット($q_1$)をターゲットビットとして CNOT
ゲートを適用します:
$$\text{CNOT}\left(\frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |10\rangle)\right) = \frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |11\rangle)$$
これにより、次のエンタングル状態が得られます:
$$|\Phi^+\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}(|00\rangle + |11\rangle)$$
エンタングルした量子ビットの測定
エンタングルした量子ビットの一方を測定すると、もう一方の量子ビットの状態が即座に決まります。例えば、状態 $|\Phi^+\rangle$ の最初の量子ビットを測定して 0 が得られた場合、2番目の量子ビットも 0 の状態になります。同様に、最初の量子ビットが 1 と測定された場合、2番目の量子ビットも 1 の状態になります。
ノイズの影響
現実の量子コンピュータでは、量子ビットは環境からのノイズの影響を受けます。ノイズは量子ビットの状態を変化させ、エンタングルメントを破壊する可能性があります。ノイズがエンタングルメントや重ね合わせ状態に与える影響を理解することは、量子コンピュータの動作を理解する上で非常に重要です。
エンタングルメントへの影響
ノイズがエンタングル状態に与える影響は、エンタングルメントが破壊され、量子ビットの状態がランダムに変化することです。例えば、エンタングル状態 $|\Phi^+\rangle$ にノイズが加わると、状態 $|00\rangle$ や $|11\rangle$ 以外の状態に移行する可能性があります。ノイズがエンタングルメントを破壊する確率は、ノイズレベルによって変わります。
重ね合わせ状態への影響
ノイズはまた、重ね合わせ状態にも影響を与えます。例えば、状態 $\frac{1}{\sqrt{2}}(|0\rangle + |1\rangle)$ にノイズが加わると、量子ビットは状態 $|0\rangle$ または $|1\rangle$ に崩壊する可能性があります。ノイズの影響により、重ね合わせ状態が持続する時間が短くなります。これは量子デコヒーレンスと呼ばれる現象です。
Qubit Duo とは?
Qubit Duo は、量子ビットのふるまいを遊びながら学ぶことができるアプリです。
主な機能
- 量子ビットの操作: Alice と Bob が持つ2つの量子ビットの状態を 0 と 1 の間でトグルできます。
- 量子ゲートの適用: アダマール(
H
)ゲートを使って重ね合わせ状態を作成し、CNOT
ゲートと組み合わせてエンタングルメント状態を生成できます。 - ノイズレベルの調整: スライダーを使って環境ノイズのレベルを調整し、その影響を観察できます。
- リアルタイムの可視化: 量子ビットの状態変化をリアルタイムでグラフに表示し、時間経過とともにその振る舞いを視覚的に理解できます。
- 測定結果のヒストグラム: 測定結果をヒストグラムで表示し、状態分布の変化を観察できます。
- レスポンシブデザイン: デスクトップとモバイルの両方でまあまあ快適に使用できます。
Qubit Duo の使い方
量子ビットの状態を切り替える
Alice または Bob が持つ量子ビットをクリックして、状態を 0 と 1 の間で切り替えることができます。
量子ビットにアダマールゲートを適用する
量子ビットの下にあるH
ボタンをクリックしてアダマールゲートを適用すると、重ね合わせ状態を作成することができます。
量子ビットに CNOT ゲートを適用する
Alice が持つ量子ビットにアダマール(H
)ゲートを適用したあと、CNOT
ボタンをクリックすると、Alice が持つ量子ビットを制御・Bob が持つ量子ビットを標的とした CNOT 操作がおこなわれて、エンタングルメントを作成することができます。
量子ビットの状態のリセット
Alice と Bob がもつ量子ビットの状態を初期状態(0)にリセットするには、Reset
ボタンをクリックします。
ヒストグラムのクリア
測定結果をクリアするためには、ヒストグラム下のClear
ボタンをクリックします。
エンタングルメント状態に対するノイズの影響を調べる
ここでは、Qubit Duoを使ってエンタングルメント状態を作成し、ノイズの影響を調べてみました。
操作手順
重ね合わせ状態を作る
Alice の H
(アダマール) ボタンを押して、アリスが持つ量子ビットを重ね合わせ状態にします。
エンタングルメント状態を作る
CNOT
ボタンを押して、Alice と Bob が持つ2つの量子ビットをエンタングルメント状態にします。
測定する
Alice あるいは Bob の Measure
ボタンを押すと、二人がもつ量子ビットの状態を測定し、結果をヒストグラムに記録します。
状態をリセットする
最後に、Reset
ボタンを押して、Alice と Bob が持つ2つの量子ビットを初期状態(00
)に戻します。
ノイズのないときの測定結果
ノイズレベルを 0% に設定し、H
→ CNOT
→ Measure
→ Reset
ボタンを順々に押して、エンタングルメント状態の測定を 30 回繰り返しました。
ノイズのあるときの測定
ノイズレベルを 5% 程度まで増やし、H
→ CNOT
→ Measure
→ Reset
ボタンを順々に押して、エンタングルメント状態の測定を 30 回繰り返しました。
結果の考察
ノイズがない場合、エンタングルメント状態の測定結果は「00」と「11」がほぼ均等に現れます。しかし、ノイズがある場合、測定結果が「01」や「10」にも現れるようになります。これは、ノイズがエンタングルメント状態や重ね合わせを崩したり、目的とする状態を準備できなかったりするために、量子ビットの状態が不確定になるためです。
この実験を通じて、エンタングルメント状態がノイズの影響を受けやすいことがわかります。量子コンピュータの実際の動作においても、ノイズは大きな問題となるため、ノイズを低減する技術が重要となっています。
演習:ノイズ下でのエラー抑制を学ぼう!
Qubit Duo を使って、ノイズがある環境下でエンタングルメント状態の測定をおこなうときに、エラーを最小限に抑えるための工夫について考えてみましょう。
目標
- ノイズレベルが高い状態で、エンタングルメント状態の測定を 30 回おこない、エラーを上手に抑えるための工夫を見つけましょう。
手順
- ノイズレベルを 5% に設定します。
H
→CNOT
→Measure
→Reset
ボタンを順々に押して、30 回の測定を行います。- ボタンを押すタイミングを工夫することができます。
- エンタングルメント状態が崩れた場合は、
H
やCNOT
操作で再度エンタングルメント状態を作成できます。 - 必要に応じて
Reset
ボタンを押して初期状態にリセットできます。 - 各操作の結果をヒストグラムで確認し、エラーの発生状況を観察しましょう。
- 測定結果の分布を確認し、ノイズの影響をどのように抑えたかを考察しましょう。
課題の例
- 30 回の測定で得られたヒストグラムのスクリーンショットを提出せよ。
- エラーを抑えるために行った操作の手順と工夫したポイントを説明すること。
- ノイズ下でのエラーを抑えるためのベストプラクティスについての考察を書け。
まとめ
量子エンタングルメントと量子ビット操作を理解することは、量子コンピュータの原理を理解するために不可欠となります。Qubit Duo を使うことで、これらの概念を視覚的に楽しく学ぶことができます。