キャロルの時間モデルに学ぶ「大学での上手な学び方」
この春、大学に入学される新入生の皆さん、大学生活のスタートおめでとうございます!
新入生の皆さんは、大学という新しい環境で生活がはじまることについて、期待や楽しみがたくさんあることでしょう。その一方で、「大学ってどんなところだろう?」「高校までと何が違うの?」と、少し不安に思うことがあるかも知れません。
「高校までの学び」と「大学からの学び」には大きな違いがあります。大学では自由度が高いからこそ、「自分で学び方を工夫する力」が必要不可欠。
このノートでは、「大学での上手な学び方のコツ」について、教育心理学者ジョン・B・キャロルが提唱した「時間モデル(学校学習の時間モデル)」1を基に、私が考えていることをお伝えしてみたいと思います。
キャロルの時間モデル
学習成果の差は「能力」ではなく「時間の使い方」の違い
高校時代、こんな経験はありませんか?
- 「この科目は苦手だから、もう諦めよう😰」
- 「あの人は頭がいいからできるんだ😞」
しかし、キャロルは次のように考えました:
学校で普通に学ぶような内容であれば、必要な時間をかければ、誰でも習得できる
学習の成否(できるようになる or ならない)は、生まれ持った資質や能力の個人差だけでは決まらずに、「学習に必要な時間をかけたか or かけなかったか」が大切だと考えます。
つまり、学んだことができるようにならないのは、その人の能力や資質が不足しているからではなくて、学んでいる時間が足りないから。
自分にできないことがあったとしても、あきらめずに、必要な時間をかければ、いつかはできるようになるはず。自分の可能性を信じてください。同時に、周りの人と比べすぎずに、個人差が必ずあることも大切にしてみてください。
学習の効率をシンプルに表すと…
キャロルの時間モデルでは、学習の効率(学習課題の達成度合い)を次のようなシンプルな式で表します:
学習率 = 学習に費やした時間 ÷ 学習に必要な時間
例えば、ある講義内容を理解するのに「8時間」必要だとします。
- 4時間しか学習しなければ、理解度は約 50%
- 8時間きちんと取り組めば、100% の理解に近づける
大切なのは「とにかく長時間勉強する」ことではなく、「自分に必要な時間をきちんと確保できたか」です。
学習率を決める5つの要因
「学習に費やした時間」と「学習に必要な時間」を左右する要因については、いくつかの要因があると考えます2。
「学習に必要な時間」を左右する要素
- 課題への適性:理想的な学習環境において、ある学習者が課題達成にかかる所要時間。短時間なら適性が高い。
- 授業の質:教師自身が実施する授業だけでなく、教科書、問題集、コンピュータ教材などにも当てはまる。質が高い授業は短時間。
- 授業理解力:授業の質の低さを克服する学習者の力。一般的な知能と言語能力が高いと、授業理解力も高い傾向がある。
「学習に費やされる時間」を左右する要因
- 学習機会(許容された学習時間):ある課題を学習するためにカリキュラムの中に用意されている授業時間。
- 学習持続力(学習意欲):与えられた学習機会のうち、実際に学ぼうと努力して、学習に使われた時間。使われた時間の割合が高ければ高いほど学習持続力が高いとみなす。
大学での学びに活かす実践的アプローチ
「どれくらいの時間が必要か」「適切な学習スタイルは何か」を把握しよう
学習効率を高めるために、まずは各科目や課題にどれくらいの時間が必要かを把握しましょう。不得意分野には多めの時間、得意分野では効率的に時間を使うことができるはずです。
学習内容への適性を考慮する:
- 初めての事柄や、まだ習熟度が低い段階においては、通常よりも時間を要すると見込んでおきましょう。
- 不明な点を曖昧にしたまま進まず、内容を十分に理解した上で次の段階へ進む姿勢が大切です。
- 特に、今後の学習に影響を及ぼす可能性のある内容については、確実に理解しておくようにしましょう。
また、自分にとって適切な学習スタイルを理解することも大切です。以下の点を振り返ってみましょう:
- 文字で読むより、図や動画で見た方が理解しやすいですか?
- 一人で勉強するより、グループでの話し合いの方が記憶に残りますか?
- 長時間の集中より、短い時間を分けて学ぶ方が効果的ですか?
このような「学びの特性」を理解することで、必要な学習時間の見極めや、あなたに最適な学習方法が見えてきます。
先輩の声:
1年生の頃は周りと同じ勉強法を試みて苦労しました。でも自分が耳で聞いて覚えるタイプだと気づいてからは、講義を録音して通学中に聴き直すようにしたら、理解度が大きく向上しました!
「わかりやすい教材」を自分で見つけよう
大学の講義やテキストが必ずしも自分に合っているとは限りません。そんなときは、補助教材を活用する工夫が効果的です。
学習の質を高める工夫:
- 授業についていくことが困難であると判断した場合は、一度立ち止まり、不足している知識や理解を自主的に補填するようにしましょう。また、授業時間外も積極的に活用してみてください。
- 学習においては、量だけでなく質にも着目し、効果的な学習方法を工夫してみましょう。
- 学習目標と自身の現状を正確に把握し、目標達成に関係のない情報や、理解を妨げる要因を排除するよう意識しましょう。
- 授業を受ける際には、常に要点と目標を念頭に置くことで、理解を深めることができます。
おすすめの方法:
- 同じ内容を扱った別の参考書を図書館で探す(→ 文字だけでなく図解を多用している本は、視覚的に理解しやすくなります)
- YouTube などの解説動画を倍速でざっと見て、必要な部分だけじっくり見る(→ まず全体像を掴んでから深掘りすることで、効率よく学べます)
- 先輩や友人に「この内容、どうやって理解した?」と尋ねる(→ 実体験に基づいたアドバイスは、自分に近い立場だからこそヒントが多いはず)
- 講義資料のスライドを印刷して書き込みながら復習する(→ 書き込むことで頭が整理され、記憶にも残りやすくなります)
- ChatGPTなどのAIに質問して説明してもらう(→ 分からないところを何度も聞き直せるのが大きなメリットです)
「学習の時間」は長さよりも「質」が重要
スマホやSNSに気を取られて、集中が途切れがち…ということ、ありませんか。ぼんやりと長時間机に向かうより、集中した短時間の方が効果的です。
学習持続力を高めるために:
- 機会を確保するだけでなく、それをどう使うかが重要であることを常に意識して無駄にしないようにしましょう。
- 自分が学習に集中できない理由を特定し、それを回避するようにしましょう。
- 授業をただ聞くだけでなく、何か得られることはないかと、積極的に聞く姿勢を持ちましょう。
- わからないといって、すぐに学びを中断しないようにする粘り強さが重要です。
- 何か学習を進めるうえで障害となる不安要因があるなら、先にそれを取り除きましょう。
集中力を高める具体的な方法:
- ポモドーロ・テクニック:25分集中 → 5分休憩のサイクルを繰り返す
- 学習環境を整える(スマホは別の部屋に、水とメモは手元に)
- 「今日は○○だけ」と、明確で小さな目標を設定する
- 学んだ内容を誰かに説明してみる(最高の理解度チェック!)
先輩の声:
私は近所のスタバの窓際の席が自分のパワースポットです。そこだと集中力が3倍になります。自分の集中できる場所を見つけるだけで、学習効率がぐっと上がりますよ。
「学習の習慣」を自分でデザインしよう
大学では、時間割も課題管理も自分次第です。「やろうと思っていたのに、気づいたら締切直前…」という事態を避けるために、あなたにとって最適な「学びの習慣」のサイクルを作りましょう。
学習機会を最大化するために:
- 学習が不足していると感じられる部分は、別に時間をとって自学自習しましょう。
- かなり時間がかかりそうなときは、毎日少しずつ行うペースをつくっていくのが効果的です。
- 自学自習できない場合は、他者に相談するか支援を受けられるところ(例:学生サポートセンター)に相談に行きましょう。
- 学習計画を立てて、計画通りに実行する習慣をつけましょう。
- 意識的に学習方略を活用していくことで効率が上がります。
効果的な習慣づくり:
- 週間計画を立てる(月曜は英語、火曜は数学…など)
- 達成可能な小さな目標を設定する(「レポートを書く」ではなく「参考文献3つ探す」など)
- 達成したら自分を褒める(小さな成功体験が大きなモチベーションに)
- うまくいかなかったときは方法を見直す(失敗ではなく、調整のチャンス)
「できる人」より「学び続ける人」に
キャロルの「時間モデル」が教えてくれる最も大切なメッセージは:
「あなたに合ったペースで、諦めずに学び続ければ、必ず成長できる」
大学生活は、「できる・できない」を競う場ではありません。「自分なりの学びを深める方法を見つける4年間」です。周りと自分を比べて焦る必要はありません。
あなたのペースで、あなたの方法で、学びを楽しんでください。最初は戸惑うことも多いでしょうが、少しずつ自分の学び方を見つけて実践していけば、必ず「なりたい自分」に近づくことができます。
みなさんの新しい学びの始まりを応援しています!
おすすめの本
キャロルの時間モデルを「学び方」に活かす工夫については、下記の本を参考にしました。
私たち教員が学ぶ「教え方」の理論・実践のひとつに、「インストラクショナルデザイン」というものがあります。
この本では、「インストラクショナルデザイン」のさまざまな手法を「学び手」側から使うことで、自分の学びに向き合い、より良い学び方を工夫し、なりたい姿に向かって成長するための考え方がいろいろと紹介されています。
余談
キャロルの時間モデルは、私が「教えること」について考えるときにも、頼りにしているアイデアのひとつです。鈴木克明先生の下記のメッセージ3 に出会って、このアイデアのますますのファンになりました。
毎日の授業の中で、教えること一つ一つに全力投球するのは、すべての子どもたちにすべてのことを学んで欲しいと思うからではない。一人でも多くの子どもが、それを学ぶのに必要な時間と労力をかけても学んでみたいと思えることに出会ってほしいと願うからである。教師として出会いの場所は数多く用意したい。しかし、貴重な自分自身の人生の時間をかけてそれを学ぶかどうかを選択するのは、子どもたち一人ひとりだ。その意味で、自分の人生設計ができる子どもを育てたい。そう思えるようになったのが、筆者にとって、キャロルの時間モデルを学んだ一番の収穫であった。