ナラティブセラピーを育んだ2人の創始者たちの「学び方」

ナラティブセラピーの共同創始者であるマイケル・ホワイトとデヴィッド・エプストンは、単に新しい心理療法を開発しただけでなく、セラピーのあり方そのものに大きな変革をもたらした思想家であり実践家です。彼らは、従来の専門家主導の治療モデルから脱却し、クライアントを自らの人生の専門家と位置づけるアプローチを提唱しました。

ホワイトとエプストンがナラティブセラピーをどのように育んできたかについて、シェリル・ホワイトが書いた「Where did it all begin?: Reflecting on the collaborative work of Michael White and David Epston」という 短い記事 があります。

この記事のなかで印象に残ったのが、ホワイトとエプストンの「学び方」を記した次の一節。

Both were serious readers but went about this in quite different ways. David read unusually widely, calling on his background as an anthropologist, while Michael rigorously focused on one author at a time (Bateson, then Foucault and others). In fact, David was known to say that while he himself read a thousand books once, Michael read the same book a thousand times, continually finding new sources of inspiration for therapeutic practice.

ホワイトとエプストンは家族療法家という共通の土壌を持ちながらも、その学び方は対照的であったようです。

マイケルは一度に一人の著者に焦点を当て、同じ本を1000回読み、治療実践のための新たなインスピレーションの源を継続的に見つけていた

マイケル・ホワイトの学び方は、ある特定の思想家の著作に集中的に取り組み、それを徹底的に読み込むというもの。このような取り組み方は、単なる知識の習得ではなく、テキストとの継続的な対話を通じて、理論を治療実践へと応用可能な形へと練り上げていくために必要なプロセスだったのではないでしょうか。

エプストンは人類学者としてのバックグラウンドを活かして、非常に幅広く、1000冊の本を読んだ

デヴィッド・エプストンの学び方は、マイケル・ホワイトとは対照的。エプストンは人類学・社会学・コミュニティ開発・ソーシャルワーク・家族療法といった多様な分野で学んでいて、この学際性がナラティブセラピーに独特の豊かさをもたらしたのだろうと想像されます。

マイケル・ホワイトの理論的深さとデヴィッド・エプストンの広範な実践的知見という、対照的なそれぞれの学び方は、ナラティブセラピーという革新的なアプローチを生み出す上で、見事に融合し、相乗効果を発揮。

このようにして生まれたナラティブセラピーは、知的に堅牢であると同時に、創造的で適応性に富むという二重性を備えています。そしてこの二重性こそが、ナラティブセラピーの大きな強みであり、多様な問題やクライアントに対応できる懐の深さを与えているのではと思っています。

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